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札幌農学同窓会 秋の講演会(10/21)のご案内

松浦 善治 先生講演会ご案内


日時: 2022年10月21日(金)
講演会 18:30〜19:30/2F 202号室  懇親会 19:40〜21:00/3F 320号室
会場: 学士会館2F 202号室(東京都千代田区神田錦町3-28、TEL/03-3292-5936)
演題: 『ウイルスと生きる』
講師: 松浦善治先生
大阪大学感染症総合教育研究拠点 拠点長
大阪大学微生物病研究所 特任教授
会費: 5,000円(支部総会〜懇親会費)
主催: 北大獣医学部同窓会関東支部、 (一社)札幌農学同窓会東京支部
後援: 北大東京同窓会

講演の内容

今から約7万年前に人類がアフリカから移動し、家畜の病気であった天然痘や麻疹がヒトに感染する様になりました。その後、大航海時代に麻疹や天然痘が新大陸に持ち込まれて多くの先住民の命が奪われ、梅毒が旧大陸へ持ち帰られました。そして、ジェンナー、コッホ、パスツール達の努力によって、多くの感染症が制圧されました。この様に人類の歴史は感染症との戦いであり、致死性の高いウイルス感染症が幾度となく出現しました。日本でも奈良時代に天然痘により200万人もの犠牲者をだし、当時の日本の人口の4分の1が失われました。

一方、我々の体に目を向けますと、100兆を超える、カビ、細菌、ウイルス等の微生物が腸管などの体内や体表に生息しており、ヒトの体を構成している約40兆個の細胞を凌駕していいます。これらの微生物叢 (マイクロバイオーム)はヒトと共生関係にあり、摂食物からのエネルギー抽出、ビタミンの産生、グルコースレベルの調整、免疫システムの制御、病原体の感染防御等に寄与しています。さらに、今から20年前にヒトの全ゲノムを解読したところ、多くのウイルス遺伝子の断片がヒト遺伝子に検出されました。特に、内在性レトロウイルスは人類の進化過程でゲノムに組み込まれ、ウイルスの感染防御や胎盤形成に関与していることが明らかになりました。この様に、ヒトに病気を起こすウイルスはほんの一握りであり、ほとんどのウイルスは宿主と平和に共存しているのです。

科学の進展によってワクチンや薬剤が開発されて、20世紀中には地球上から感染症を根絶できると誰もが信じていました。しかしながら我々は、エイズ、インフルエンザ、SARS, MERS等の発生を経験し、2019年の暮れに中国武漢で発生した新型コロナウイルスのパンデミックは猖獗を極め、人類がいかにウイルス感染症に対して無力であるかを思い知らされました。ヒトの感染症の60%は人獣共通感染症であり、新興感染症の75%は人獣共通感染症です。さらに、将来パンデミックを起こす可能性の高い病原体の殆どはRNAウイルスであり、RNAウイルスは変異ウイルスの集団として存在することで、宿主の免疫応答や薬剤等の環境変化に柔軟に対応しており、変異ウイルスの出現予測は困難です。

ヒトの健康は、家畜や野生動物を含めた動物の健康、そしてヒトや動物を取り巻く地球環境とも密接に関係しています。ワンヘルスとは、ヒト、野生動物や家畜、そして生態系の健康をひとつとみなし、地球上の生態系を保全しようとするものです。ワンヘルスの平衡状態が、気候変動、森林伐採、生物多様性の消失、密漁や乱獲、抗菌剤の乱用等の人的要因によって崩れた結果、人獣共通感染症が出現し、都市化とグローバリゼーションによって、ウイルス感染症は瞬く間に全世界に蔓延することが、新型コロナウイルスのパンデミックでも証明されました。

ウイルスは細菌と違って、生きている細胞でしか増殖できず、核酸とそれを包む蛋白質や脂質の単純な粒子で、生き物には必ずウイルスが潜んでいます。また、ウイルスは細胞を熟知しており、ウイルスは細胞の言葉を話すと表現する研究者もいます。自分の設計図だけを小さな殻に詰め込んで、細胞間を渡り歩きながら命を繋いでいるウイルスは、健気で逞しい生命体です。本講演では、そのようなウイルスを概説したいと思います。

演者のプロフィール

1955年 福岡県北九州市戸畑区生まれ
1974年 福岡県立戸畑高校 卒業
1978年  宮崎大学農学部獣医学科 卒業 (獣医師)
1980年  北海道大学獣医学部大学院修士課程 修了
1980年  第一製薬株式会社中央研究所 研究員
1982年  国立予防衛生研究所 研究員
1984年
〜1986年 
オックスフォード大学NERCウイルス学研究所 研究員
1992年  国立感染症研究所ウイルス第二部肝炎ウイルス室 室長
2000年  大阪大学微生物病研究所 教授
2015年
〜2019年 
大阪大学微生物病研究所 所長
2021年  大阪大学感染症総合教育研究拠点 (CiDER) 拠点長 (〜現在)

主な受賞歴

1990年  多ヶ谷勇記念ワクチン研究イスクラ奨励賞
1995年  ウイルス学会杉浦奨励賞
2013年  野口英世記念医学賞

主な最近の業績

  1. Secretory glycoprotein NS1 plays a crucial role in the particle formation of flaviviruses. Tamura T, Torii T, Kajiwara K, Noda K, Anzai I, Morioka Y, Suzuki R, Fauzyah Y, Ono C, Okada M, Fukuhara T, and Matsuura Y. PLoS Pathogens(2022) in press
  2. Establishment of a reverse genetics system for SARS-CoV-2 using circular polymerase extension reaction. Torii S, Ono C, Suzuki R, Morioka Y, Anzai I, Fauzyah Y, Maeda Y, Kamitani W, Fukuhara T, and Matsuura Y. Cell Reports (2021) doi: 10.1016/j.celrep.2021.109014.
  3. Various miRNAs compensate the role of miR-122 on HCV replication. Ono C, Fukuhara T, Li S, Wang J, Sato A, Izumi T, Fauzyah Y, Yamamoto T, Morioka Y, Dokholyan NV, Standley DM, and Matsuura Y. PLoS Pathogens(2020) doi: 10.1371/journal.ppat.1008308.
  4. In vivodynamics of reporter Flaviviridae viruses. Tamura T, garashi M, Enkhbold B, Suzuki T, Okamatsu M, Ono C, Mori H, Izumi T, Sato A, Fauzyah Y, Okamoto T, Sakoda Y, Fukuhara T, and Matsuura Y. J Virol (2019) doi: 10.1128/JVI.01191-19.
  5. USP15 participates in HCV propagation through the regulation of viral RNA translation and lipid droplet formation. Shinji Kusakabe S, Suzuki T, Sugiyama Y, Haga S, Horike K, Tokunaga M, Hirano J, He Z, Chen D. V, Ishiga H, Komoda Y, Ono C, Fukuhara T, Yamamoto M, Ikawa M, Satoh T, Akira S, Tanaka T, Moriishi K, Fukai M, Taketomi A, Yoshio S, Kanto T, Suzuki T, Okamoto T and Matsuura Y. J Virol (2019) doi: 10.1128/JVI.01708-18. 

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